プロジェクトの進捗状況が一目瞭然。バーンダウンチャートとは。
2019/06/20
プロジェクトマネージメント
バーンダウンチャートとは
バーンダウンチャート(Burn Down Chart)は「プロジェクトの進捗状況が計画からどのくらい離れているのか?」ということが一目で分かるグラフです。縦軸にタスク量、横軸に時間を割り当て、残りのタスク量を線のグラフで示します。
バーンダウンチャートを簡単に表すと上記のようなグラフになります。それぞれの線は次のような意味を持ちます。
実績線:残りのタスク量を示す線です。タスクが完了すると、タスクに予定された時間の分だけ減少します。
計画線:プロジェクトの開始時に見積もられたタスクの期限日と作業時間によって表示されます。
理想線:全ての作業量をプロジェクトの実施期間で平均した線です。計画線の比較対象となり、計画が妥当か否かチェックできます。理想線はあくまで目安であり、必ずしも理想線に沿って、進める必要はありません。
実績線の傾きが鈍く(横向き)になるとプロジェクトが停滞しており、傾きが鋭く(縦向き)になるとプロジェクトが進行していることを意味します。全体としてどれくらい遅れているかということは、実績線が右上にどれくらい膨らんでいるかを見れば分かります。なお、プロジェクトが予想以上に捗った場合、実績線が理想線を下回る軌跡を描くこともあります。
計画段階には存在しなかった新たなタスクが追加された場合、計画線と実績線には新たなタスクの時間が積み増されます。グラフにおいては計画線と実績線が右肩上がりになる形で反映されます。
個別のタスクは事前に WBS (Work Breakdown Structure) などの手法で細分化しておき、期限日と作業時間を割り当てておきます。なお、詳細は後述しますが、バーンダウンチャートを利用する際には必ずしも「すべてのタスクの時間と期日を詳細に設定する必要は無い」ということを覚えておいてください。
バーンダウンチャートの作り方
バーンダウンチャートを作るのは、さほど難しくはありません。タスクの細分化が済んでいれば Microsoft Excel などの表計算ソフトでも作成できます。
理想線は、開始日のタスク量と終了日のタスク量を直線で結べば完成します。計画線は、細分化したタスクの期限日と所要時間の計画によって決まります。実績線は、その日に完了したタスクの所要時間を全タスク量から引いた値を入力することで描かれていきます。
また、プロジェクト管理ツールにバーンダウンチャートを描く機能が実装されていたり、有志によって作成されたプラグインによってプロジェクト管理ツールにバーンダウンチャートを導入することができます。手動で実績線を作成していくのはやや手間がかかるため、ツールで自動化できるのであれば、間違ったグラフを描く心配もなく、手間なく作成できるでしょう。
バーンダウンチャートを作成する際に注意したいこととして、全タスク量がプロジェクトメンバーの累計稼働時間を超えないようにする、ということが挙げられます。上図のプロジェクトが仮に3人のチームメンバーで構成されている場合、プロジェクトに対して稼働できる時間は1日あたり約3.5時間です。全タスク量がこれを超えている場合、そもそも達成不可能な計画を立てているということになります。
バーンダウンチャートの読み解き方
バーンダウンチャートは残りの作業量がゼロになる=グラフが右下へ下がりきることでいったん役目を終えます。プロジェクトの進行中はプロジェクト管理者がバーンダウンチャートをチェックすることで進捗状況を管理します。
ですが、バーンダウンチャートはプロジェクトが終了した後、そのプロジェクトにおける課題を発見する際にも有用なグラフになります。また、複数のプロジェクトにおけるバーンダウンチャートを比較することで、組織が抱える共通の課題を発見することもできます。
以下の節ではバーンダウンチャートの読み解き方を解説します。
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グラフの傾き
プロジェクトが進行している最中に注目すべきポイントです。例えばプロジェクト開始当初から中盤にかけて常に実績線の傾きが鈍い場合、各タスクの見積もりにそもそも無理があるなどの理由で、全体の作業が遅れている可能性が高いと判断できます。他方、実績線の傾きが突然鈍くなった場合は何らかの突発的なトラブルが発生した可能性があります。
先ほど Microsoft Excel にて作成したグラフを例に、プロジェクトに何が起きているのか推測してみましょう。
プロジェクトの中盤まで、実績線は順調に下降しています。どうやら順調にタスクがこなされているようです。プロジェクト管理者はこのプロジェクトをチームメンバーの自主性に任せ、他の業務へ時間を融通させることができるでしょう。
ですがプロジェクトの中盤において実績線の傾きが鈍くなり、プロジェクトが停滞しています。グラフの7月14日以降です。どうやら突発的なトラブルが発生したようです。このときプロジェクト管理者は停滞の兆候に気づき、メンバーへヒアリングを実施するなど、プロジェクトが抱える問題を解決するために行動する必要があります。
停滞が始まってから二日後、チームメンバーは解決法を編み出し、一気に作業が進んだようです。最終的に、プロジェクトはメンバーの頑張りによって無事に終結したようです。
以上のように、グラフの傾きだけでも「プロジェクトに何かが起きている」と知ることができ、進捗状況のマネジメントに役立ちます。更に、グラフの全体的な形状を見ることで過去のプロジェクトにおいても何が起こったのか知ることができます。
次節以降ではグラフ全体の形状をどう読み解くのか解説します。
ほぼ計画線に沿う実績線
実績が計画通りに進む形状です。フェイキー・フェイキー(Fakey-Fakey)とも呼ばれます。もちろん計画と実績の乖離がなく、順調に進んでいる状態になるのですが、一方でプロジェクトが計画通りに進みすぎる「不自然さ」もあります。
このようなチャートが見られる場合、主に2つのパターンが考えられます。
1.メンバーが優秀なためプロジェクトが計画通りに進んだ
2.バーンダウンチャートを計画通りに進めることが目的になり、成果物が仕様通りでなくなっていた
前者であれば全く問題はありません。しかしながら、2番目の可能性もあるという点には注意したいところです。バーンダウンチャートはあくまでプロジェクトの実態を把握するためのツールです。計画通りでないことを反映することもバーンダウンチャートの役目なのですが、計画がずれることを恐れ、プロジェクトの内容や質へ影響を与えていると、バーンダウンチャートが意味のないものになってしまいます。
早期学習型
バーンダウンチャートが早い段階で右上に膨らみ、後に緩やかに減少していきます。これは一見するとプロジェクトの開始早々に遅延が発生しているようにも見えますが、多くはプロジェクトが健全に稼働していることを示します。以下のグラフの動きは早期にタスクの詳細化やプロジェクトの課題が検出できている状態になり、チームメンバーはよく成熟しており、プロジェクトに対して自主的に取り組んでいると見なすことができます。
バーンダウンチャートを採用するプロジェクトは、すべてのタスクのうち6割から7割程度までしか見積もらないことがあります。残りのタスクは大まかに見積もっておき、プロジェクトの進行中に改めて詳細化します。
プロジェクトが始まると早い段階でタスクの詳細化が進むため、プロジェクトの初期段階では残りの作業量が減りません。タスクの詳細化が完了すると作業量がゼロへ向かって下降していきます。したがって、プロジェクトが開始されてからしばらくタスクが減らず、その後一気に計画線に近づくという状態は、残されていたタスクの詳細化が進んでいることが考えられます。
注意したいことは、この膨らみがプロジェクトの中盤になっても解決されない場合、タスクの詳細化が済んでいないか、別に何らかの課題を抱えており解決されていない状態になっているということです。これらのケースはあくまで一例に過ぎません。早い段階でバーンダウンチャートが右上へ膨らんだ際、何が原因なのかを把握しておきましょう。
中間~後期学習型
バーンダウンチャートがプロジェクトの中盤から終盤において右上に膨らみます。チームメンバーはあまり成熟しておらず、場合によってはプロジェクトに対して受動的に取り組んでいると考えることができます。
プロジェクトの中盤から終盤になって様々な問題が発見されています。問題の具体的な例としては、不明瞭だったタスクの詳細化が進まなかった、技術的な問題が発生した、リソースが慢性的に不足するようになった、等々が挙げられます。
最後に「追い込み」をかけている所にも注目しましょう。この「追い込み」によって、プロジェクトの最終成果物に対する品質チェックが十分でない可能性や、プロジェクトにおいて予定されていた成果の一部が未完成のため後続のプロジェクトに移された可能性があります。あるいは、チームメンバーが終えたはずのタスクを報告していないという可能性も考えられます。
いずれにせよ、プロジェクトの早期に解決しておくべき課題が後回しにされ、優先度やリスクの高い項目に対して効果的な対策が打ち出されなかったということになります。過去のプロジェクトにおいてこのような傾向が見られる場合、新たなプロジェクトの計画段階においてチームメンバーと共に具体的な対策を検討する必要があります。
このように急激にタスク消化のペースが向上した場合にも、安易に「頑張っている」と捉えることは危険です。ペースが下がった時、上がった時をバーンダウンチャートで検出し、それぞれ原因を把握することが大切です。
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ほかの指標を追加する
バーンダウンチャートへ他の指標を追加することで、バーンダウンチャートから想定できる問題の裏付けを取ることができます。例えば、バーンダウンチャートの傾きから異常が検知された際に「どのようなイベントが発生したのか」というメモを付与するだけでも、バーンダウンチャートから読み取れる「何らかの異常」の原因を誰が見ても分かるようになります。
バーンダウンチャートを扱う際の注意点
直感的にプロジェクトの状態が可視化できるバーンダウンチャートですが、使い方を誤るとプロジェクトマネージメントが失敗する可能性もあります。以降の節ではバーンダウンチャートを扱う際に注意すべきポイントを紹介します。
バーンダウンチャートだけを見て進捗状況を判断しない
マネジメントの基本とも言えます。現場には数値に表れない様々な情報が溢れています。プロジェクトチームの雰囲気や、メンバーの表情といった情報は、プロジェクト管理者が直接コミュニケーションを取る中で把握するべき情報です。バーンダウンチャートだけを見て進捗状況を判断せず、様々な情報を統合してプロジェクトの状態を判断しましょう。
タスクの見積もりを一人で実施しない
タスクの見積もりは、可能な限りチームメンバーの全員で行うべきです。チームメンバーが計画段階から参加することで見積もりがより正確になります。また、計画段階では詳細化されていなかったタスクの早期詳細化や、問題の早期発見に繋がることにもなります。
バーンダウンチャートを完了させることに拘らない
闇雲に「バーンダウンチャートを完了させろ」と叫んでも意味がありません。バーンダウンチャートはプロジェクトを成功に導くための一つの目安に過ぎません。プロジェクトが抱えている本質的な問題の発見と解決を実施しなければ、チームメンバーが疲弊し、かえって効率が落ちてしまいます。プロジェクトが抱える問題を発見する際は、バーンダウンチャートから読み取れる情報を活用したり、メンバーへのヒアリングを行ったりと、様々な方法が挙げられます。
バーンダウンチャートを人事評価の指標としない
バーンダウンチャートはあくまでプロジェクトマネージメントのツールであり、人事評価のツールではありません。バーンダウンチャートの傾向をもとに人事評価を行ってしまうと、作業量を見積もる際に過大な時間を割り当てたり、バーンダウンチャートの完了に拘るようになったりと、デメリットが多々発生します。
作業完了の定義を決めずにプロジェクトを進めない
何をもって「作業を完了した」と判断するのかはメンバーごとに異なります。プロジェクトの計画段階において「作業完了の定義」を決めなければ、タスクの見積もりが不正確になり、バーンダウンチャートが意味を成さなくなります。タスクごとに責任者を決め、責任者がきちんと作業完了を確認してから終了としていくことがオススメです。
バーンダウンチャートのまとめ
今回はバーンダウンチャートについて紹介いたしました。バーンダウンチャートは「進捗状況が計画からどのくらい離れているのか?」ということが一目で分かるグラフです。原理は単純ですが、進捗状況のマネジメントにおいて大きな威力を発揮します。
バーンダウンチャートは様々な情報を内包しており、読み解き方を覚えれば現在進行中のプロジェクトにおける進捗管理だけでなく、プロジェクトの計画段階において見通しを立てることさえ可能になります。例えば、バーンダウンチャートの傾きを見ることでプロジェクトの進捗状況を把握することができます。また、過去のプロジェクトにおいてどのような傾向が見られたのかを知ることで、新たなプロジェクトにおいて発生しうる問題を予測することができます。
一方、バーンダウンチャートを扱う際にはいくつかの注意点もあります。バーンダウンチャートはあくまで進捗をマネジメントしやすくする「ツール」です。実績線を計画線に沿わせることが目的になると、プロジェクトが抱える問題を発見し解決する、という肝心のポイントを見失ってしまいます。プロジェクトの正しい実態を把握するためにも、バーンダウンチャートは「ツール」であることをプロジェクトにおける共通認識としましょう。
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