プロジェクトの目的は共有されていますか?

2019/06/04

プロジェクトマネージメント

プロジェクトの目的を考えているイメージ

プロジェクトを成功に導くノウハウについては多くの著書があり、またプロジェクトの管理ツールも多く存在します。ノウハウを学ぶこと、管理ツールを使いこなすこと、どちらも大変有用なことです。

一方で、あまりに基本的過ぎるために見過ごされがちで、忘れられがちなことがあります。それは、プロジェクトにおける目的の共有です。プロジェクトと呼ばれる「仕事の共同体」は必ず、何かしらの達成すべき目的を持っています。

では「何のためにその仕事を行うのか」という目的は、プロジェクトに携わる人々、すなわちステークホルダーにきちんと共有されているでしょうか?また、共有がなぜ重要なのでしょうか?

プロジェクトの目的を共有することの効果

「プロジェクトの目的の共有」に関して一般的に言えるのは、プロジェクトの目的が明確で、かつ全体に正しく共有されていないと、往々にして想定外のトラブルが発生するということです。逆に、プロジェクトの目的がきちんと共有されているならば、プロジェクトが円滑に推進する可能性を見込むこともできます。

プロジェクトの目的を共有することの効果について、1965年にノーベル物理学賞を受賞した天才理論物理学者、リチャード・フィリップス・ファインマンの逸話をご紹介しましょう。

※本記事には二十世紀半ばに発生した第二次世界大戦に関連する内容が含まれますが、本記事は当時の戦争に関してどのような政治的見解も示しません。

リチャード・フィリップス・ファインマン(Richard Phillips Feynman 1918-1988)は素粒子論や量子論に大きな貢献を果たした物理学者です。ファインマンは自由奔放な性格と愉快な言動で人々に知られていますが、彼の逸話を追っていくと、チームマネジメントに役立つ鋭い洞察も含まれていることが分かります。今回は「目的の共有」という焦点に絞り、彼の逸話とその分析を示します。

目的の共有例 – 作業効率が10倍に

ファインマンがプリンストン大学の大学院で博士号を取得したのは1943年、第二次世界大戦のまっただ中のことでした。ファインマンは博士号を取得したのち、すぐにロスアラモス国立研究所へ移り、原子爆弾を製造するためのマンハッタン計画に携わることとなります。

このマンハッタン計画に含まれる小規模なプロジェクトにおいて、ファインマンはプロジェクトの目的を共有するだけで10倍もの作業効率を引き出すことに成功しました。10倍というのはちょっと信じがたい効率ですが、もともと目的を共有しなかったために、せっかく集めていた優秀な人材の能力を引き出せていなかった、というのが大きな要因でした。

あるとき、ファインマンは全米の高校から工学に関して優秀な成績を収めている生徒を集めた「特別工学分遣隊」というグループのリーダーを務めることとなりました。このグループの役割は、当時のIBMが開発した機械でひたすら計算を行うというものでした。全米から選りすぐられた優秀な生徒たちは、まったく意味の分からない数字を機械に打ちこみ、まったく意味の分からない結果を提出していたのです。仕事の能率は、ファインマンによれば「3個の問題を9ヶ月かけて解いている」というほど遅々としたものでした。

状況を把握したファインマンはすぐに行動を起こしました。生徒たちが従事している計算の内容と目的について、いますぐに教えるべきだと主張したのです。当時、原子爆弾を製造するプロジェクトは存在自体が極秘中の極秘でしたから、陸軍がファインマンの主張に対して難渋を示したことは想像に難くありません。当時のロスアラモスでは手紙の検閲も行われていたほどです。最終的にロスアラモスに集まった研究者たちのリーダー、オッペンハイマーが陸軍の保安係へ直談判することになり、ようやくファインマンの主張は受け入れられることになります。

生徒たちはファインマンのごく簡単な講義によって、自分たちが行っている計算作業の内容と目的を知らされました。講義が終わるやいなや、生徒たちは「僕らの仕事の目的が分かったぞ。僕たちは戦争に参加しているんだ!」と一気にモチベーションを回復します。目的を知った生徒たちは、効率的な手法を編み出し、仕事の段取りを改善し、果てには使い回しのできるプログラムまで作り出しました。

実のところ、生徒たちは原子爆弾が爆発する際の圧縮エネルギーを計算しており、計算の成果は原子爆弾の製造に役立てられていました。それまでまったく意味の分からなかった数字が意味を持ち、計算結果の意味と目的まで理解できるようになった生徒たちの作業効率は、ファインマンによれば「9個の問題を3ヶ月で」解いてしまうほど向上しました。元々、工学に関しては優秀な生徒たちですから、ひとたび目的を知ったならば、モチベーションの上昇と共にその能力が存分に発揮されるようになったのです。

ちなみに、この生徒たちが数字を打ちこんでいたIBMの機械というのは、パンチカードに打ちこまれた数値を読み取って計算を行う機械、すなわち、当時はまだ一般的ではなかったコンピュータでした。最先端技術の産物、コンピュータを使っているのだと知った生徒たちの興奮もまた、並大抵のものではなかったことでしょう。

ファインマンがプロジェクトの目的を共有するだけで10倍もの作業効率を引き出せたことには、いくつかの背景要因があります。

・優秀なメンバーが能力を全く発揮できない環境に置かれていた
・本来は有意義な仕事が無意義に感じられる仕事に成り果てていた
・当時の最大の関心事が戦争の行方だった

これらの背景要因は、現代において考えればかなり極端です。そのまま当てはまるというケースは稀でしょう。したがって、プロジェクトの目的を共有したならばすぐさま作業の効率が10倍になる、とは言い切れません。

ですが、単に目的を共有しただけで作業効率が改善されたこと自体は注目すべきポイントでしょう。待遇は決して悪くないのにメンバーの作業効率が悪かったり、見当違いな作業をしていたりする場合、プロジェクトの目的が共有されているか、その目的が適切なものかどうか、それを理解しているかどうかを再確認することをお勧めします。

この例でファインマンが上手だったのは、プロジェクトのメンバーにとって身近で関心事のあることに目的を設定したことでしょう。戦争の是非はともかくとして、当時の若者はおおむね戦争に関心を持っており、ファインマンもまた例外ではありませんでした。メンバーに対してプロジェクトの目的を伝え、いかに意義のあることかを的確に説き、メンバーが目的の達成にどれほど役立つのかを示したことで、メンバーのモチベーションをいっきに引き上げたのです。

この教訓を一般化するならば「共有する目的はなるべく具体的で、かつ身近に感じられることにした方が効果が高い」ということでしょう。プロジェクトの目的を共有することで必ずしもメンバーのモチベーションが高まるとは限りませんが、具体的で身近な目的が提示されれば、メンバーは目的を達成するために様々な方策を考えることができます。少なくとも、闇雲に「効率を上げろ」「早く仕事を達成しろ」と叫んで監督するより、目的を共有して「どうすればより良く達成できるか一緒に考えてほしい」と呼びかけて歩みを共にした方が、プロジェクトは円滑に進むことでしょう。

目的の共有例その2

グラフを作成しているイメージ

さて、ファインマンはユーモア溢れる人物であり、自身の失敗もたちまち笑いの種にしてしまう人でした。彼は目的を共有しなかったために失敗した経験も語っています。次は天才が失敗したケースをご紹介しましょう。

ファインマンがロスアラモス研究所に移る少し前、フィラデルフィアの軍需工場で、とある機械式の計算機を設計するプロジェクトに就いていたときのことでした。機械式計算機は歯車の噛み合わせによって計算結果を弾き出す計算機のことで、電子式の計算機が登場するまではよく使われていた計算機です。

さて、当時の大砲には観測手と砲手がおり、観測手が望遠鏡で覗いた目標をもとに砲弾の軌跡を計算し、大砲を向ける高さや角度を砲手へ伝える必要がありました。このときに正確な計算を行うための機械式計算機を設計する、というプロジェクトです。

軍需工場ですから、軍の士官がときどき作業の進捗を確認するためにプロジェクトの現場へ視察に来ます。このときファインマンの上司は「仕事の具体的な内容について軍には教えるな。軍の連中ときたら、内容を理解したと思い込んだが最後、ろくでもない命令を下し始めて、仕事をめちゃくちゃにする」と教え、ファインマンもこれに同意してしまいました。軍の士官が視察に来て質問するたび、ファインマンは命令されたことをただ実行しているだけだ、というフリを通しました。実際にはファインマン自身が頭を働かせて機械式計算機の歯車を設計していたにもかかわらず。

ですがあるとき、ごく簡単な、しかし本質的な質問が軍の士官から投げかけられます。「観測手と砲手が同じ場所にいなかった場合はどうするのか」。そんなことを念頭に置いていなかったファインマンはすっかり困ってしまいます。ファインマンたちが設計していた機械式の計算機は、三角関数を駆使するものでした。ですが観測手と砲手の位置がずれている場合、三角関数で補正するとなるとかなり厄介な計算が必要となります。

戦場を知る軍の士官からすれば、観測手と砲手が違う場所にいる、という状況は容易に想定できることだったのでしょう。一方、戦場を知らないファインマンや彼の上司は、きれいさっぱりとそのことを失念していました。ファインマンたちはプロジェクトの目的を「砲弾の軌跡を正確に計算すること」だと思い込んでいましたが、本質的な目的は「砲手が設定すべき大砲の角度を観測手が伝えること」だったわけです。

結局、観測手と砲手が違う場所にいる場合の補正を考慮するため、ファインマンたちは機械式計算機の歯車を設計し直すことになりました。現代の電子式計算機と違い、歯車を多用する機械式計算機は、計算式が変わると歯車の構成を変更する必要があるため、場合によってはイチから作り直す必要があります。ファインマンをして「骨が折れた」と言わしめるほどですから、この場合も相当に苦労したようです。

目的を取り違えると失敗する。ファインマンの教訓から

ファインマンの失敗談は、目的の共有を怠ったために、いわゆる「手戻り」が発生した例として興味深いものです。「砲手が設定すべき大砲の角度を観測手が伝えること」という本質的な目的が共有されていたなら、天才と名高いファインマンのことですから、すぐに観測手と砲手が同じ場所にいない場合を想定できたことでしょう。

ですが、目的が「砲弾の軌跡を正確に計算すること」だと思い込んだばかりに、天才と名高いファインマンであっても見当違いの設計をしていることに気づけなかったのです。これはとても示唆に富んだ逸話です。いかに優秀な人物でも、ひとたび誤った目的が設定されてしまうと、それが真に正しいかどうか見抜くことは難しい、ということです。

なお、ファインマンはどれほど地位が高い者に相対しても物怖じせず、歯に衣着せない物言いをすることで有名でしたから、軍の士官を恐れた可能性は考えづらいでしょう。重要なステークホルダーである軍の士官を厄介者扱いした結果として、目的の共有がなされずにプロジェクトが見当違いの方向へ進んでしまったのです。

この教訓を一般化するならば「どれほど優秀なメンバーを揃えても、目的を見失うと失敗する」でしょう。プロジェクトのリーダーを務める立場にある人は、そのプロジェクトの目的がステークホルダーへ周知徹底されているかどうか、把握する必要があります。また、現在行われている作業がプロジェクトの目的に沿うものかどうか、常に客観視する必要もあります。

最も基本的で重要な「目的の共有」

今回はプロジェクトの目的を共有する意義について、ノーベル物理学賞を受賞した経験もある天才理論物理学者ファインマンの成功と失敗の両方を引き合いに出してご紹介しました。

どのようなプロジェクトも必ず、何かしら達成すべき目的を持っています。今回ご紹介した例からも、プロジェクトのステークホルダーが共通の目的を共有する必要があることは明らかでしょう。目的を適切に共有したならば、作業効率の向上やモチベーションの向上を期待することができます。逆に、目的の共有がなされていない、あるいは似ているようで食い違う目的が共有されてしまった場合、どれほど優秀なメンバーであっても効果的なパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。

様々なノウハウを学習しプロジェクトの管理ツールを導入したにもかかわらず、プロジェクトの運営が上手くいかないとお悩みの方は、最も基本的な「目的の共有」が果たされているかどうか、いまいちど確認してみてはいかがでしょうか。

※本記事の執筆にあたっては
ご冗談でしょう、ファイマンさん(上). R.P.ファインマン(著), 大貫昌子(訳). 岩波書店. 2000.
を参考としました。

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