プロジェクト管理におけるコストマネジメントとコミュニケーションマネジメント
2019/05/30
プロジェクトマネージメント
多くのプロジェクトマネージャーがプロジェクトを成功に導くために、頭を悩ませているのが「コスト」と「人員」の問題です。プロジェクト管理はビジネスであるため、スケジュール通りに定められた成果物を生み出すということだけでなく、限られたコストや人員をマネジメントしながらより多くの利益を出すことを考えなければなりません。
本記事では、プロジェクト管理における「コストマネジメント」と自社内、外問わず重要となる「コミュニケーションマネジメント」について解説します。
プロジェクト管理におけるコストマネジメント
プロジェクトを遂行する為に最も重要とされる「予算」は、当然ながら無限ではありません。プロジェクトを進める時には、スケジュールだけではなく、予算も定められた枠内で達成しなければなりません。そしてプロジェクトを予算内に完了させる為には正確な「見積もり」、「予算設定」そしてコストの「コントロール」が必要になります。
プロジェクト管理において、見積もりと予算は闇雲に多く確保すればいいということではなく、成果物のために必要な人件費や機器などといったリソースを洗い出し、適切な金額を算出するコストマネジメントを行います。しかし、計画の段階においては何かしらの情報が不足している場合もある為、実際に必要になるコストが見積もったコストと合致しなくなることがしばしば起こります。
このような問題における1つの対策としては、これから行おうとしているプロジェクトに似たような過去のプロジェクトに関わった人の「知見」を借りることです。様々なプロジェクトを多く経験している人は、成果物の内容からおおよそのコストの規模などを見積もることができるでしょう。内部の人間、外部の人間に関わらず相談を行うことで「知見」を活かして不透明なことを可能な限りなくすことは、コストマネジメントに関わらず重要です。
しかし、それは経験で培われた感覚になりますので、あくまで目安に過ぎません。また相談できる人が常に近くにいるとは限りません。経験者の声を参考にしながら、実際にプロジェクト管理におけるコストマネジメントを行うにあたっては「PMBOK(ピンボック)コストマネジメント」を参考にするのがいいでしょう。
PMBOKコストマネジメント実施作業
「PMBOK」はProject Management Body of Knowledgeの略で、世界中で使われているプロジェクト管理に必要となる知識を体系化したものです。その構成は10のマネジメント領域と5つのプロセスから成り立っています。また、10のマネジメント領域の中には、「統合マネジメント」「スコープマネジメント」「タイムマネジメント」「品質マネジメント」「人的資源マネジメント」「コミュニケーションマネジメント」「リスクマネジメント」「調達マネジメント」「ステークホルダーマネジメント」「コストマネジメント」があります。ここでは「コストマネジメント」について焦点を当てて、紹介していきましょう。
PMBOKのコストマネジメントはプロジェクト管理の過程で現実的な予算を組み立てて、無駄なコストが嵩まないようにしっかりと枠組みを作り、行なっていくものです。実現させるためにはいくつかの作業工程があります。大きく分けると「コストマネジメント計画」「コスト見積もり」「予算設定」「コストコントロール」の4つに分けることができます。では詳しく見ていきましょう。
1)コストマネジメント計画
進めていくプロジェクトに対して、コストの計画やマネジメントの方法、コントロールの方針や手順などを文書化します。
2)コスト見積もり
プロジェクトを遂行するために必要な資源の概算金額を算出します。
3)予算設定
進行していくプロジェクト全体の予算を算出し、配分することで、コストのベースラインを作成します。
4)コストコントロール
進行していくプロジェクトを承認された予算を超えないようにきちんとプロジェクトを監視し、コストベースラインの変更をマネジメントします。
PMBOKのコストマネジメントをより実際のプロジェクト管理で使えるようにさらに詳しく説明していきます。
コストマネジメント計画
プロジェクトにおける重要で根本的なことを、取り決めた憲章やプロジェクト管理計画書から予算とコストの情報を確認し専門家関係者に確認した上で、プロジェクト管理計画書の補助計画書の一つとなる「コストマネジメント計画書」を作成していきます。
コストマネジメント計画書の内容
PMBOKで定義されているコストマネジメント計画書には、以下の項目を記載します。
1)コスト見積もりの有効桁数
スコープや規模に応じた見積もり精度を決めます。
2)コストの測定単位
労働時間数、日数など測定の単位を定義します。
3)組織の手続きとのリンク
コスト管理に使用するWBS要素と会計システムのコードを紐づけます。
4)コントロールしきい値
コスト実績の許容範囲を決めます。
5)パフォーマンス測定の規則
EVM(アンドバリューマネジメント)で使われる計算式を決めます。
6)報告形式
コストに関する報告内容と頻度を決めます。
7)プロセス記述
コスト見積もり、予算設定、コストコントロールのプロセスを定義します。
コスト見積もり
コストを見積もるにあたって、以下を参考にしながら進めていきます。
1)人的資源マネジメント計画書
プロジェクトに必要な人員、単価、報酬の確認などをまとめていきます。
2)スコープベースライン
成果物の情報とセキュリティやアイセンス、契約など、法律関連を確認します。
3)プロジェクトスケジュール
タスクや工程に割り当てた資源や量、期間を確認します。
4)リスク登録簿
リスク対策費を確認します。
見積もり手法
コストの見積もりを行うための手法は、「類推見積もり法」、「パラメトリック見積もり法」、「ボトムアップ見積もり法」などがあります。その方法について紹介していきます。
1) 類推見積もり法
過去の類似プロジェクトの情報を基に、相対的に見積もる手法です。
2) パラメトリック見積もり法
過去の情報と他の変数の統計的関係を使って見積もる手法です。
3) ボトムアップ見積もり法
タスクや工程から工数を見積もって、それらを積み上げて全体の工数を見積もる手法です。
予算設定
コスト見積もりを基にプロジェクトスケジュールを時系列に予算配分し、コストベースラインを作成します。予算は、期間ごとに必要な分だけ分配します。予算設定をきちんと行うことで「いつ、どのタイミングで」、「どれだけのコストがかかる」のかを明確にすることができます。
コストコントロール
プロジェクトにはトラブルが付き物であり、当初の予定通りに進まないことが多々あります。コストコントロールでは、プロジェクトを監視しながら、コストベースラインの変更をマネジメントします。納期やコストが有限であるプロジェクトの進行においては、ベースラインの影響をいち早く察知し、迅速な対応が求められます。コストコントロールにおいては「プロジェクト管理ツール」の導入を検討するとベースラインの影響をいち早く察知し、迅速な対応がしやすくなるので、管理ツールの検討をお勧めします。
プロジェクト管理におけるコストマネジメントは、定められた予算内にプロジェクトを完了させるための重要なマネジメント方法です。コストに見合ったものを提供しなければならないし、もしコストを超過してしまえば自社での損害となったり、プロジェクト自体が立ちいかなくなったり、顧客の信頼を失うなど「プロジェクトの失敗」だけでは終わらない事態になってしまいます。そのためプロジェクト管理におけるコストマネジメントは非常に重要な役割を持っているといえるでしょう。
プロジェクト管理におけるコミュニケーションマネジメント
ここまではプロジェクト管理における「コストマネジメント」について紹介しましたが次は「コミュニケーションマネジメント」について紹介していきます。
プロジェクトを遂行するためには、コストを算出し超過させないだけでなく、プロジェクトに関わる人員の管理も大切なポイントになります。そして仕事をする上では、作業者がすべてロボットでない限り、人員とのコミュニケーションは必要不可欠です。そして、コミュニケーションはチームメンバー間だけではなく、顧客、スポンサーなどすべてのステークホルダーと正確に図る必要があります。
コミュニケーションは「話す」というイメージですが、特にビジネスシーンでのコミュニケーションは「話す」ことが主目的ではありません。コミュニケーションには、相手の話を聞き、正しく理解し、その情報を正しく伝達し、共有することが含まれます。伝達をおこなうということはただ単に「伝える」のではなく「伝わる」ことが重要です。
また相手に言われたこともきちんと理解しなければプロジェクトを進めていくにあたって相互の意思や意見に誤差が生じ、そこからトラブルが発生する場合もあるでしょう。そんなコミュニケーションにおけるトラブルを起こさず、円滑にプロジェクトを遂行していくためにも「コミュニケーションマネジメント」は重要となってきます。
先に説明した「PMBOK」の10のマネジメントの中にも、コストマネジメントと同様に、コミュニケーションマネジメントが存在していますので、PMBOKの体系化された手法に基づいて解説していきます。
コミュニケーションマネジメント計画
コミュニケーションに関してもマネジメント計画をきちんと立てることが重要です。
まずは、顧客やスポンサーのニーズなどが記載されているステークホルダー登録簿から今回のプロジェクトに関わる人々の情報を引き出し、ステークホルダーに対しての情報伝達方法やタイミングを定めた計画書を作成します。またこれは顧客やスポンサーなどの社外向けだけでなく、プロジェクトをおこなっていくメンバーにも適応されます。
コミュニケーションマネジメント計画は以下の項目を基に作成していきます。
1)コミュニケーションモデル
相手に情報を伝達する際は、理解を妨げる物理的また心理的ノイズを確認し、適切な伝達方法を選びます。簡単にいうと情報を伝える側が受け取る側に対して、誤解のないよう伝達できるように具体的に言語化し、モデル(伝達する内容や方法の設計)を組みます。また相手がフィードバックで返してくる場合も同様に、こちらが誤解して受け取らないようにするモデル作りをする必要性があります。
2)コミュニケーション手段
コミュニケーション手段には「相互型」「プッシュ型」「プル型」の3つの方法があります。
・相互型
直接的な対話や、会議、電話など、双方向に情報が交すことができる方法で、共通の理解に最も適しているとされています。
・プッシュ型
メールなど、一方的に相手に情報を伝達する方法です。一般的には相手に届いたか、理解されたかのフィードバックが行われません。
・プル型
ウェブサイトなどを利用して情報を配布する方法です。プッシュ型と同様フィードバックは行われません。
プロジェクトの内容や進め方、期限などよってどのコミュニケーション手段を選ぶかは重要となってきます。もちろん相互型がその場で相互の意思や意見などを確認できるので、コミュニケーション手段としては1番優れていると言えますが、すべてのコミュニケーションを相互型にすることは困難です。コミュニケーションの重要度や内容に応じて臨機応変にタイプを選択することが大切です。
コミュニケーションマネジメントの実行
プロジェクトを進める上でのコミュニケーションマネジメントの実行プロセスでは、プロジェクト情報の収集や配布、管理を計画に基づいて行います。その手段としては、紙媒体ではなく、プロジェクト管理ツールなどのシステムを活用することが一般的です。その理由として紙媒体にすると準備にかかる時間や人件費、印刷代などのコストがかかることや紛失してしまう可能性などを上げることができます。そのため人件費、印刷代のコストカットなども含めてプロジェクト管理ツールを使うことが支持されているのです。
パフォーマンス報告
プロジェクトを遂行する上で、プロジェクトの進捗状況や予測などの情報を収集し、関係者に展開する必要があります。ベースラインと実績のデータを比較し、分析を行うことでパフォーマンスを把握することができます。
コミュニケーションコントロール
コミュニケーションコントロールは、作成された計画内容の通りにコミュニケーションが適切に実行されているかを評価し、現状のままでいいか変更点はないかなどの検討などもおこないます。このコミュニケーションコントロールを行うことで現状のプロジェクトの効果がどのくらい出ていて、適正であるかどうかの評価を行うきっかけにもつながり、報告を行う際などにも活用することが可能です。またプロジェクトの改善点もこの作業を通して確認することが可能なので、この「コミュニケーションコントロール」はプロジェクト管理、コミュニケーションマネジメントにおいても重要な項目であると言えます。
最後に
いかがだったでしょうか。「プロジェクト管理におけるコストマネジメント」と「プロジェクト管理におけるコミュニケーション マネジメント」について紹介いたしました。プロジェクトを成功させるためにも適正なコストになっているか、コストカットはきちんと行えているかなど、コストマネジメントはプロジェクトを進めていくにあたって重要な1つのポイントです。
またコミュニケーションマネジメントについてもコミュニケーションは一方的に伝えるものではなく、「正しい情報」、「正しい時期」、「正しい手段」で「正しい相手」に伝わっているかを管理しなければなりません。大きなプロジェクトであればあるほど、コミュニケーションの管理が難しくなり、重要性が増します。コミュニケーションマネジメントもプロジェクトをするにあたって様々な人間が関わってくることとなるので、重要となってきます。
PMBOKは一見難しいように感じる人もいるかもしれませんが、世界中で利用されている体系化されたフレームワークなので、この考え方をベースに組み立てることで情報を整理しやすくなるはずです。
またプロジェクト管理ツールを導入することで、専門的な知識や経験が足りなくてもある程度適切なマネジメントができるようになりますので、効率的に管理を始めたい方にはお勧めの手段です。